イタリアのバール

 イタリアのどの街にもチェントロ(中心地)には広場があります。そこは市民がサロンや散歩する場所として使いこなす場所です。広場には市民の憩いの場であるバールがあり、人々の暮らしに欠かせない存在になっています。
 
 アーチストやデザイナーのたまり場的なバールやサッカーのサポーターのバール、政治色の強いバールもあります。田舎に行けばトランプをしている老人の溜まり場のバールや、奇跡を起こすと評判の聖人の絵を飾っているカソリック信者のバールまであります。イタリアの人々は自分の好みに合わせてバール選び、楽しんでいるのです。



 

写真左:カフェ・グレコ、写真右:フローリアン・カフェ

 イタリアにトルコを経由してコーヒーが伝わったのは16世紀になってからと言われています。そして初期のカフェが生まれたのは18世紀になります。初期からつづくカフェとして、ヴェネチアのカフェ・フローリアンやローマのカフェ・グレコが今でも残っており、その雰囲気を現代に伝えています。ただこのカフェは、一部の上流階級のためのサロン的な性格をもっており、現在のバールにある立ち飲みのシステムもありませんでした。
 
 バールが生まれたのは19世紀末のフィレンツェです。食料品店のオヤジさんが店の一角にお客が立ったままコーヒーを飲めるようにして、ビスケットやパンなどの軽いものを食べられるようにしたのがバールの原型と言われています。上流階級のためのカフェと異なり庶民がコーヒーを飲むことができるということで大当たりして広まったと言われています。



 イタリアのコーヒーは日本でエスプレッソといわれる深煎りで細かく挽いたコーヒー豆から抽出するエスプレッソがコーヒーの基本となります。デミタスと呼ばれる日本で普通のコーヒーカップの半分ぐらいのサイズのカップで提供されます。エスプレッソのネーミングははっきりしませんが、さっと出しさっと飲むからとか、エスプレッソマシンのメーカーが特急列車のイメージを使ったとの説もあります。バールで出されるエスプレッソバージョンは100以上あるようです。主なものでも次のようなものがあります。
・ カフェ・ノルマーレ:普通のエスプレッソ
・ カフェ・ラッテ:エスプレッソとミルクを半々で混ぜたもの
・ カフェ・マキアート:エスプレッソにミルクを少々入れたもの
・ カプチーノ:エスプレッソにクリーム状にしたミルクを加えたもの
・ カフェ・モカ:エスプレッソにチョコレートとミルクを混ぜたもの
・ カフェ・コン・グラッパ:エスプレッソにグラッパという蒸留酒を入れたもの
 
 これに加えて、モルト・ストレット(うんと濃い奴)、カフェ・ドッピオ(エスプレッソのダブル)、コン・ラッテ・カルド(ミルクをたっぷり)というような表現が加わります。要は個性の国イタリアらしく、自分向けに誂えたコーヒーを要求しているのです。


 バールは早朝から通勤途中の人が立寄り、焼きたてのコルネット(クロワッサン)を食べながらカプチーノやエスプレッソを立ち飲みする人でごった返します。 みんなコーヒーをさっと飲んで、コルネットを食べて5分ぐらいで出て行きます。一般にイタリアの家での朝食はとても軽いです。コーヒーかカフェラテなどの飲み物にビスケットや乾パンにジャム、パネットーネなどの軽いものを食べます。朝 はお腹が空かないとコーヒーだけの人もかなりの割合でいます。このまま学校や仕事へいくと、10時ごろお腹が空いてきますので、バールで2度目の 朝食を摂るのです。このことをイタリアでは第二の朝食と呼びます。
 
 バールでの朝食の定番は「カプッチーノとコルネット」です。常連になったバールへ行くとこちらから注文品を言わなくても「いつもの?」と先にこされたりします。コルネットはクロワッサンに似たパン菓子で、クロワッサンよりバターの分量が少なく、パンに近くなります。中にクリームやチョコレートやジャムが 入っているものもあります。


 イタリアには日本のように手頃な価格で食事を提供する大衆食堂がありません。手頃な昼食をとるためバールを利用する人々が増えています。ランチ需要に対応してバールでは、昼食時間になるとパニーノにハムやチーズを挟んだものを出したり、最近ではパスタや食事を出す店さえあります。イタリアのお昼休みが開始される午後1時以降は、バールは昼食をとるお客さんでごった返します。午後2時半過ぎからはレストランでの昼食が終わって,カフェで胃袋の調子を整えるために立ち飲みでコーヒーを1杯といったお客さんが増えてきます。食後のコーヒーはバールという人も多いのです。
 
 昼間のデイタイムも仕事を抜け出し近くのバールに出かけたりします。仕事中にバールに出かけるのは、社会的に許されているのです。要は気分転換で、日本の「お茶しよう」と言った感覚に近いものがあります。


 仕事が終わって夕方になると、食前酒やスプマンテを一杯引っ掛けにやってくる人が増えてきます。夜の8時になるとばったりと人影が無くなります。家に帰って家族と食事するためです。つまり仕事が終わって夕食を採るまでの7時から8時が街角のゴールデンタイムなのです。

 
 カフェやバールでは政治談義、スポーツ、日常生活情報が行き交い、話しをすること自体が楽しみとなっています。行き交う仲間達とわいわい過ごす楽しいひと ときです。当然ファッションには気を使う社交場です。安い立ち飲みカフェを楽しみ,店を渡り歩くのもイタリア人の醍醐味の一つ。また散歩道にはジェラート 屋があり、そこでジェラートを楽しみ、バールでカフェを飲んで口直し。街中にジェラート屋が数多くある理由もここにあります。